モンスターを食う!!漫画『ダンジョン飯』の魅力は、意外すぎる現実味だった話
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「グルメ漫画」なんて大枠のカテゴリーでは、年々増え続ける作品の内容を正確に分類することは最早不可能なのではないだろうか?漫画を通して料理の魅力を伝えたい、という共通したテーマを根底に持ちつつも、王道と呼べる「美食追求型」や「料理バトル型」、「人情ドラマ型」だけではなく、ここ数年で主流となりつつある「探訪オピニオン型」や、郷土料理やB級グルメを紹介する「マイナーグルメ型」、中には料理を食べる事によって事件が解決する「グルメ刑事タイプ」などなど、作品に応じて様々なテーマや切り口が存在しているのだ。そんな「グルメ漫画」に異例とも呼べる新たなジャンルが誕生した。それは、実在することのない食材の料理を紹介する「空想食型」である。

本日は、ダンジョンに生息する魔物を美味しくいただいてしまおうなんて、気の触れたテーマで人気の漫画『ダンジョン飯』の魅力に付いて考えてみよう。その前に今作をグルメ漫画と呼んで良いのだろうか・・・?

目次

世界観は定番のファンタジー。妹を助けるべく兄はダンジョンへ向かう

『ダンジョン飯』でモンスターを食べるまでの経緯〜

主人公である冒険者・ライオスは、ダンジョン最深部を探索中にドラゴンに遭遇する。圧倒的なドラゴンの力によりパーティは全滅寸前まで追い詰められてしまう。そんな状況を打開すべく、妹・ファリンは、ドラゴンに食べられながらも、パーティーのメンバーを脱出させるため魔法を使用する。

ファリンの魔法によりパーティは無事ダンジョンを離脱することに成功したが、ドラゴンに食べられてしまったファリンの姿は見当たらなかった。

どうやらドラゴンの腹の中にまでは魔法の効果が及ばなかったようで、彼女は離脱することができず、ダンジョン(ドラゴンの腹)に取り残されてしまっていたのだ。状況的に彼女は既に死んでしまっている可能性も予想されたが、ダンジョンには不思議な力が存在しており、死体がある程度の保存状態であれば蘇生は可能とのこと。

しかし、今回はドラゴンの腹の中という異例の事態のため、救出は急務。妹を助けるため、ライオスは、すぐにでもダンジョンに戻る必要があったのだが、そんな彼に仲間の離脱や金銭などの問題が押し寄せる・・・。

最深部まで到達するには日数も掛かかり、食料を調達しなければいけないが、携帯食料を調達する資金もない。装備を売り資金も集めることは可能かもしれないが、それでは時間が掛かってしまい妹を救えない可能性も高い。そんな葛藤を解決する苦渋の決断として選ばれたのが「直ぐにダンジョンに向かい、食料は道中のモンスターを食べる」という方法だった。「苦渋」と言う割にはライオスだけは妙にウキウキしているのが少しばかり気になるが・・・。

と、冒険の理由としては、なんとも使い古されたガチガチのテンプレスタイルながら、オリジナリティ溢れるコンセプトを導入することで、今作品『ダンジョン飯』は「異色の名作」にまで昇華された。

空想の生き物を食べるという未知なる行為に対する説得力に優れた漫画『ダンジョン飯』

「空想の生き物を食べる」このようなコンセプトを持つ作品は実は多数存在しており、代表的な作品としては、週刊少年ジャンプに連載されていた『トリコ』が上げられるのだが、「未知なる食材を調理して食べる」というテーマで判断した場合、先に紹介した『トリコ』よりも『ダンジョン飯』の方がテーマに特化した内容作りがなされており、読者に対する説得力が高い。よくよく考えてみると『トリコ』に関しては、ジャンプテイストの王道「バトル物」に未知なる食材を探して食べるという「冒険活劇」を織り交ぜた作品なので性質自体が違うという考えもある。とりあえず、漫画比較は置いておいて、今回は「モンスターを食べる」という誰も体験したことのない事例なのに、妙にリアルな今作品のモンスターの調理方法や味について、コミックスの1巻からネタバレにならない程度で紹介しよう。

モンスターの代表格「スライム」すら美味しく食べてしまう今作

モンスターの代表格であるスライム。今作品では、水分豊富な消化液まみれのゲル状モンスターを、干物にすることで美味しく食べられることを読者に提案している。日干しにすることで水分を減らすことができ、保存性と味わいを高めるという考えなのだろう。現実世界では、体内の水分保有率が90%を超えてる「クラゲ」がこういった処理をされ、料理の食材として利用されているのは有名な話。作中でもスライムはゼラチン豊富と書かれているので、クラゲをイメージしたのだろうと思われる。水分豊富なスライムの調理方法としては非常に的確で納得のできるものである。

「大サソリ」の味は予想通りの甲殻類

現実の世界に存在する生き物がダンジョンの影響で巨大化するのもファンタジーでは定番のパターン。大サソリではありませんが、現実世界でもサソリは食べられており、強壮強精剤としての効力があると言われています。現実世界でのサソリの調理方法としては、サイズも小さいため素揚げがポピュラーですが、作中では巨大なサソリとなっておりますので、当然肉厚。毒のある尻尾を切り落とした後は、内蔵を取り除き胴体をぶつ切りにして鍋にしています。茹で上がると殻がほんのり赤くなる描写は、まるでカニやエビのよう。実際にサソリを食べた方も「小エビ」のような味と表現しておりますので、「大サソリ」もそういった感じなのでしょう。実際のところは虫というかモンスターなんですが、味の想像しやすさから心惹かれます。いや素直に食べてみたいです。

仮の宿を探す「ミミック」

ミミックと言えば、ロールプレイングゲームなどでは宝箱に擬態したモンスターというイメージが定番ですが、今作品では宝箱に住み着いたモンスターとして設定されているのです。作中での造形は、どうみてもヤドカリ。柔らかい腹部を守るため宝箱に納まっていたのですね。そんな見た目のカニ感から調理方法はシンプルな釜茹。謎のモンスター・ミミックもヤドカリに関連付けると一気に親近感が湧いてきます。

「動く鎧」すら食料に変える作者の驚きの思考

ドラゴンクエストとかの設定ですと、「動く鎧」の動く理由って確か悪霊が中に入っているとかだったと記憶があります。その他の設定では、遠隔操作されていて本体が別にいるなんてパターンもあったと思いますが、今作品ではなんと貝類の設定を取り入れることで、空っぽの鎧を動かしていたのです。そのため調理方法も貝類と同じく、開いて可食部である中身を出す感じであります。それにしても食べることなど出来ないと思われていた「動く鎧」を、まさか料理の素材にしてしまう発想があるなんて・・・。モンスターを食べられる設定を考える作者の執念というか狂気は凄まじものです。

食べれないモンスターにも様々な利用法が・・・

「ダンジョンには無駄なものなんてない」というのが作者様の考えなのでしょうか?食材に利用することが到底不可能なモンスターにも、料理に関連した何かしらの役割を与えられているのです。例えば魔法生物である「ゴーレム」。ファンタジーの基本的な設定ですと、魔法使いによって作られた主人の命令に忠実に従う下僕のような存在であります。その忠実さから「大切な何か」を守る守護者としての役割を担うこともあり、ダンジョンなどにも配置されることが多いですが、作中ではモンスター食を愛するドワーフ・センシによって、自己防衛自己管理できる「畑」として利用されていました。

筆者の思う『ダンジョン飯』の魅力は現実的な説得力

このように今作『ダンジョン飯』は、モンスターという架空の生物を食べるという突拍子もないコンセプトにも関わらず、実の内容はモンスターと実在の生き物の「生態」を紐付け料理の素材として扱うという、非常に現実的なアプローチが取られた作品となっている。そういった手法があるからこそ、本来であれば食用ではない「モンスターも食べられるのでは」と、読者を納得させる妙な説得力が生まれているのだ。という訳で『ダンジョン飯』という作品は、モンスターの生態を作者というフィルターを通して現実的にし、さらなる説得力と魅力を持たせるため「グルメ要素(食べられる)」が付属されているのかもしれない。

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