「できればこんな青春時代を過ごしたかった・・・」読者をそんな淡い気持ちにさせてくれる罪な漫画が現在巷で大ヒット中とのこと。そう『からかい上手の高木さん』である。今作品の魅力については後述させていただくのだが、気がつけば30代半ばになってしまった筆者にとっては、読むたびに学生時代の後悔をリフレインさせる作品なのだ。もう今さら仕方のない事なんだ・・・と、諦めかけた後悔が何度も積み上がり、気がつけば頭の中は三途の河の石積み刑状態。
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「からかい」というデリケートなテーマを扱いながら、爽やかに描かれる青春ストーリー??「からかい上手の高木さん」
画像引用https://twitter.com/takagi3_anime
「からかい」と「いじめ」は同義、なんて意見も多い昨今に、直接的かつ、その腕前を賛美する冒険的なタイトルに対して批判的な意見を述べる者もいるのでは?なんて疑問を初見で抱いてしまったのだが、それはどうやら筆者の取り越し苦労だったようだ。
物語の概要としては、少年少女の交流を甘酸っぱく爽やかに表現した日常系青春ストーリー?である今作品。タイトルに含まれる「からかい」という言葉から連想する負の要素などは微塵も感じさせず、「頼むから主人公の代わりに俺をからかってくれ!!高木さん!!」なんて懇願すら聞こえそうな、“高木さんと過ごす羨ましくも平和な日々”が描かれている。
それでは、そんな男の理想が詰まった漫画、いや、バイブルである『からかい上手の高木さん』の舞台となる町について簡単に説明させていただこう。
物語の舞台は昭和の懐かしさが漂う田舎町
原作を読んでいただければわかるように、今作品の舞台は、平成の世には何とも珍しい「駄菓子屋」や、子ども達が自由に出入り出来る「空き地」が今尚残る田舎町となっている。そういった町並みと、ほのぼのした作品のテイストが相まり、時代背景は昭和中期なのではと、ついつい推測してしまうのだが、物語を読み進めるにつれ、「深夜アニメ」が放映されていたり、携帯電話の主流が「スマホ」だったりするため、時間軸は我々と大差のない現代ということが理解できる。何とも紛らわしい田舎町だ。
ちなみに作品の舞台となっている田舎町は、原作者の山本崇一朗氏の出身地である「香川県小豆島土庄町近辺」がモデルとなっている。ファンにとっては聖地と呼ばれる場所ですね。そんな、なんとも懐かしい町を舞台に、主人公である「西片くん」と、ヒロインである「高木さん」の“からかい”を通したコミュニケーションが描かれている。
嫌味のない「高木さん」の絶妙なキャラ設定と感情移入してしまう作品の手法
画像引用https://twitter.com/takagi3_anime
今作品の最大の魅力といえば、やはり、ヒロイン高木さんが様々な方法で仕掛けてくる“からかい”にある。作品名の表題にも含まれる重要なコンセプトゆえ当然といえば当然ことなのだが、からかいを行う高木さんの造形の絶妙なバランスがあるからこそ作品の爽やかさが演出されているのだ。
仮に高木さんが今よりも派手なキャラター、例えるなら少年漫画の「お嬢様キャラ風」で設定されていた場合、読者は同じように作品を評価出来ただろうか?いや、きっと出来ない。まず、お嬢様キャラ特有の“高圧な態度”と“からかい”という人様にちょっかいを出す行為は、もはやテンプレ的といっても過言ではないほどの相性の良さを誇っているのだが、どうしてもキャラ特有の嫌味なイメージが先行してしまう。「西片!!あんたは私の家来なのよ!!」なんて感じで展開するストーリーは、僕らの知ってる『からかい上手の高木さん』とは大きく掛け離れてしまっている。今すぐ作品名を『わがままお嬢様の高木さん』に変更した方が良い。いや、それはそれでM系男性読者は喜ぶかもしれないけど・・・。
とにかく“からかい”という少しばかり棘のあるテーマを爽やかに演出するために、現在のような高木さんの「お姉さん風」のキャラクター設定が選ばれたのだろう。
しかしながら、なぜ高木さんは お姉さん風のタイプになったのだろうか?別に作中に嫌味さえ感じさせなければ、ヒロインは「委員長タイプ」でも「男勝りな活発女子」でも良かったのではないだろうか?その辺りの疑問は、今作品のプロットを考える事で解決するのではないだろうか。
今作品の主題とも言えるテーマは、男子中学生が女子中学生に巧みにからかわれるというものだ。そのため、男子生徒よりも確実に優位に立てる女子生徒のタイプがヒロインに必要なのである。
中学1年生の男子といえば、まだ小学生気分も抜け切らない幼稚な存在。当然、主人公である西片くんも、そういった男子の1人だ。
そんな彼らに対して確実に優位に立てるヒロインのタイプを考えた場合、委員長タイプでは、男子の自由を奪う敵として認識されてしまう可能性も高いし、男子生徒をからかうなどの行為自体をしないはず。
そして、男勝りな活発女子では、力で男子をねじ伏せてしまう可能性もあるし、場合によっては男子と対等な「仲間」のポジションに収まってしまう事もある。
上記のような状況を防ぐためには、男子生徒が本能的に自分よりも上と考えるタイプが必要だったのだ。いうならば男子生徒がからかう事をためらう存在。
そういった条件を満たしつつも、作品のテイストに合うタイプを考えた場合、該当するのは「ギャル」と「お姉さん」の2タイプに絞られるのではないだろうか。
両タイプ共に同い年にも関わらず、余裕のある立ち振る舞いから、大人な存在として見られることが多いため、まだまだ幼い男子学生にとっては特別な存在とされる傾向が高い。
以上のような考えがあったかは不明だが、読み切り掲載時の高木さんは可愛らしいながらも、現在よりも吊目で、少しばかり意地の悪いギャルっぽいビジュアルとなっていた。物語の展開的には連載作品に近しい流れではあったが、高木さんがギャル風という事もあり、「からかい」と「いじり」が混同し、若干ではあるが嫌味な印象が滲み出てしまっていたのだ。
そんな僅かに残った棘を綺麗に取り去り完成した連載仕様の高木さんは、お姉さんタイプにモデルチェンジされ、中学1年生にして、主人公西片くんをポーカーフェイスでからかう、嫌味のない柔らかな可愛さを手に入れたのだ。読者の中には、高木さんに“からかわれ”たいがために、2次元の世界に旅立つべくTV画面にダイブしてしまったなんて人もいるのでは?それくらい納得の仕様。完璧です。
まだ作品をご覧になったことのない方のために、本日はアニメ版『からかい上手の高木さん』の動画用意させていただいたので、コチラを参考に高木さんの美貌だけではない魅力を解説させていただこう。
ご覧いただいた動画のように、今作は西片くんを“からかい”たい高木さんと、いつも自分をからかってくる高木さんを、あの手この手で“からかい返そう”とする西方くんの2人が中心となって話が構成されている。そんな、ある種の心理戦にも近いコンセプトを持つ今作ゆえに、高木さんの考えは読者にも伏せられている。
一般的な作品であれば、向かい合う両者の心理がモノローグ(キャラの心の声)として記載されていることが多いのだが、今作では、高木さんのモノローグの記載がされることが少なく、読者ですら高木さんの本心を理解することがむずかしいのだ。
そういった主人公目線で進んでいく話は、読者も感情移入がしやすく、からかいの中に織り交ぜられた“意味深発言の意図”に、西片くん同様、読者も照れながらも頭を悩まされ続けるのだろう。